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Estonian Music Projectについて


ごあいさつ

 この広い世界にはまだまだ知られざる秘曲が星の数ほど散在しています。バルト海に面する美しき小国エストニアも、そうした未知なる秘曲の宝庫であるといえます。古くから歌の歴史を持つエストニアはルードルフ・トゥビアス、マルト・サール、ヘイノ・エッレル、エドゥアルド・トゥビン、アルヴォ・ぺルトといった大作曲家たちを生み出し、現在でも彼らに続こうという若手作曲家たちが競って独自の音楽活動を展開し、その音楽は徐々に広く世界に認知されつつあります。

 今日では珍しいCDもインターネット等を通して容易に探し出すことができ、全く便利な時代になりました。しかしながら、やはり音楽は実際に楽譜を手に取り、自らの手を通して触れたいと願うのは演奏家の性です。そして私たちが初めてエストニアの作曲家の作品に接したときにも、私たちの胸に同様の欲求が芽生えたことは想像に難くないことです。ところが、「録音はされているのに、楽譜に関する情報が全く掴めない。どうして?」、思わぬ大きな壁が私たちの目の前に立ちはだかりました。日本国内の有名な輸入楽譜専門店をいくつか当たってみましたが、彼らからの返答は「そのような楽譜はお取り扱いしかねる」等、全てネガティヴなものばかりでした。こうなっては自分の力で何とか入手することしか道は残されていないと考え、エストニアの音楽情報センターや楽譜出版社に直接コンタクトを試みるも、なかなか返答を得られなかったり、ようやく連絡が取れたと思いきや、楽譜が送られてくるまでに半年から一年という長い歳月が費やされたことも一度や二度ではありませんでした。しかし、遂にその楽譜を我が手にした時の感激というものは言葉に尽くしがたく、その時の気持ちは今なお忘れることのできないものです。私たちはそうして入手して少しずつ集めた愛すべき作品たちを、是非とも外に向かって発信したいと考え、それぞれの演奏活動の中で、折に触れてエストニアの作曲家による作品をとりあげてきました。

 ところで、「私たち」とは今のところピアノ奏者2人のことですが、年齢差は一回り以上、初めて出会ったのは2003年、しかもそれはネット上でのことでした。当時、お互いにエストニア音楽に関する情報収集に奮闘している真最中で、特にウルマス・シサスク作曲の≪銀河巡礼≫の楽譜を探しもとめていた時期でもあり、まさに「星の巡り逢わせ」といえる奇跡的な出逢いでした。それを機にメールや文書を通してお互いの情報を交換したり、録音などを通してお互いの演奏の聴き合ったりしながら親交を重ね、遂には2004年9月に『星空からのメッセージ』と題し、ウルマス・シサスクのピアノ作品ばかりを集めたトーク&コンサート開催を実現。こだわりのプログラムで、初めて同じ舞台に立つことができました。これを皮切りに、2005年12月には本格的なデビュー公演『いにしえのアボリジニたちの見た星空へ』を東京オペラシティにて開催、ウルマス・シサスク作曲≪銀河巡礼~南半球の星空≫の全曲日本初演を果たし、作曲者であるシサスク氏自身からも温かい祝福を受けました。その他、レポ・スメラ、ヘイノ・エッレル、エドゥアルド・トゥビンといった作曲家たちの作品を積極的に紹介し、現在に至っています。今後もこうした活動を通してエストニアの音楽文化の普及に努めていきたいという願いも一致、まだまだ試行錯誤の状態にある私たちではありますが、とにかく「実行あるのみ!」と決意しております。どうかご支援頂けましたら誠に幸いです。


名誉顧問 ラウリ・ヴァインマー氏 プロフィール

 ラウリ・ヴァインマー(名誉顧問)
 Mr. Lauri Väinmaa (Honorary Adviser)

 1961年、エストニアに生まれる。国立タリン音楽院(現・エストニア国立音楽演劇アカデミー)のブルーノ・ルーク教授のクラスに学んだ後、国立チャイコフスキー記念モスクワ音楽院にてミハイル・プレトニョフ、レフ・ヴラセンコに、ロンドンの英国王立音楽院にてクリストファー・エルトンに師事。また、巨匠アルフレッド・ブレンデルとも親交を重ね、氏より芸術的助言を受けている。イギリスやアメリカで数々のコンクールに入賞、ヨーロッパ各地にてリサイタルを行い、また各地のオーケストラとも数多く共演している。ヴァインマー氏はエストニアで2年に一度行われる国際ピアノ・フェスティバル“KLAVER”の創設者であり、現在、同フェスティヴァルの芸術監督を務めている。また、各国の国際コンクールの審査員としても度々招かれている。

 彼のレパートリーはバッハからシュニトケ、ペルトまで幅広く、特にJ.S.バッハ、ベートーヴェン、リスト、ブラームス、プロコフィエフを得意としている。エストニアで初めてシェーンベルク、ベルク、ヴェーベルンの全作品を演奏したピアニストとしても知られているほか、タリンとタルトゥにおけるベートーヴェンの32曲のピアノソナタ全曲演奏チクルスは特筆すべき功績である。レコーディングにも積極的に取り組み、代表的録音であるウルマス・シサスクのピアノ曲集「銀河巡礼~北半球の星空」(世界初録音)のほか、その続編である「南半球の星空」(世界初録音)、エストニア・ピアノ作品集、エストニア・ピアノ協奏曲集(いずれもフィンランディア・レーベルより発売)などを残している。また、2000年に初来日を果たし、武蔵野市民会館において、シサスクの「銀河巡礼~北半球の星空」全曲初演を含むリサイタルを行い、好評を博した。

 現在、エストニア国立音楽演劇アカデミー・ピアノ科助教授。


秋場 敬浩 プロフィール

 秋場 敬浩 Takahiro Akiba

 1984年、横浜市生まれ。9歳よりピアノを始める。東京藝術大学音楽学部を首席で卒業。学内にてアリアドネ・ムジカ賞、安宅賞、アカンサス音楽賞、同声会賞を受賞。その後、同大学院音楽研究科修士課程を経て、博士後期課程に進学。現在、ロシア国立チャイコフスキー記念モスクワ音楽院に留学中。

 2004年、「第5回 ショパン国際ピアノコンクール in ASIA」アジア大会銀賞受賞。同年~05年、「秋吉台音楽ゼミナール」に参加、講師推薦による受講生コンサートに出演。06年、「藝大奏楽堂モーニングコンサート」のソリストに選抜され、藝大フィルハーモニアとラフマニノフのピアノ協奏曲第2番を演奏。07年、「同声会新人演奏会」、「新卒業生紹介演奏会」(グリーグのピアノ協奏曲)に出演。08年、「東京・春・音楽祭―東京のオペラの森」に出演、東京国立博物館平成館においてリサイタルを行い、各方面より好評を博す。近年より、ロシア音楽史を象徴する伝説的ピアニスト、作曲家、教育者の一人であるサムイール・フェインベルクの芸術遺産の研究にも力を注ぎ、本年5月にモスクワのゴリデンヴェイゼル邸博物館における「S.E.フェインベルク生誕120年記念コンサート」(ロシア功労芸術家ヴィークトル・ブーニン氏と共演)、9月にモスクワ音楽院にて行われた「フェインベルク生誕120年記念音楽祭」などで一連のピアノソナタをはじめとしたフェインベルクの作品を演奏し、ブーニン、メルジャーノフといったフェインベルクの高弟たちからも師の作品の優れた演奏者として評価されている。このほか、日本各地、モスクワにてソロ、オーケストラとの共演、室内楽および声楽のピアノ奏者を務めるなど、多方面に亘って演奏活動を展開。ピアノを峯村操、西川秀人、渡邊健二、原田英代、ミハイール・オレーネフ、ヴィークトル・ブーニン、ヴィークトル・メルジャーノフの各氏に師事。

 国際エドゥアルド・トゥビン協会(エストニア)、日本エストニア友好協会会員。

  • [エストニア音楽に関する論文、記事など]
    ◎ 秋場敬浩『エドゥアルド・トゥビンのピアノ作品における有機的構造~ピアノソナタ第2番と“オーロラの形象”をめぐって』 (東京藝術大学大学院修士論文、2009年)

  • 吉岡 裕子 プロフィール

     吉岡 裕子 Yuko Yoshioka

     埼玉県さいたま市(旧 浦和市)生まれ。4歳より母の手ほどきでピアノを始める。埼玉県立浦和第一女子高等学校卒業。武蔵野音楽大学器楽科を経て、同大学院修士課程修了。

     1990年、「武蔵野音楽大学卒業演奏会」、「新人演奏会」に出演。91年、「霧島国際音楽祭」に参加。「国際芸術連盟新人オーディション」に合格。92年、全日本演奏家協会主催「第1回全日本フランス音楽コンクール」第2位入賞。94年、「第7回ながの・アスペンミュージックフェスティバル」に参加。95年、オーストリアのクラーゲンフルトにおける「ヴィクトリンク・ムジークフォーラム国際マイスターコース」に参加、コンサート「Junge Solisten」に出演。同年、バリオホールにてソロリサイタルを開催。96年、ティアラこうとう小ホールにてソロリサイタルを開催。97年、スイスの「ヴェルビエ音楽祭」に参加。アカデミー選抜コンサートにソロと室内楽の両方で出演。同年、台湾の高雄市における音楽祭でモーツァルトの2台ピアノのための協奏曲を高雄市交響楽団と共演。97年より2002年まで毎年12月、八ヶ岳高原音楽堂にてトーク&コンサートを開催。99年、高雄市交響楽団と再び共演(プーランクの2台ピアノのための協奏曲のソリストとして招待演奏)。同年、キリスト品川教会グローリア・チャペルにてソロリサイタルを開催。04年、キリスト品川教会グローリア・チャペルにて、ショパンのピアノ協奏曲第1番を含むプログラムでソロリサイタルを開催。05夏、エストニアのヤネダに作曲家ウルマス・シサスク氏を訪ね、氏のピアノ作品に関するレクチャーを受ける。また、ポーランドのワルシャワにてショパン・アカデミーのセミナーを受講し、テレサ・マナステルスカ氏に教えを受ける。05年より八ヶ岳高原ロッジ(株)主催「四季の音楽会」(於:八ヶ岳高原音楽堂)などの企画に毎年出演、ピアノ独奏の他、クラリネット、フルート、ヴァイオリンとの共演でこれまでの演奏会数は70回を越える。

     これまでにピアノを福元サゞレ、永島恭子、ゲルハルト・ベルゲ、マックス・マルティン=シュタイン、山田彰一、エルジェーベト・トゥーシャの各氏に、ピアノ・デュオ演奏法をアンリエット・ピュイグ=ロジェ氏に師事。

     現在、埼玉県立大宮光陵高等学校音楽科ピアノ講師。日本エストニア友好協会、日本アルメニア友好協会、与野音楽連盟、さいたま市音楽家協会会員。


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